「経験の場」が減った時代に、若手の設計力をどう育てるか
コラム 2026.10.10
どれほどAIやツールが進歩しても、製品の価値を決め、最終判断を下すのは人です。けれども、その判断力を育てる「経験の場」が、いまの開発現場からは急速に失われています。
デジタル化と分業化が奪ったもの
実機に触れる機会の激減
画面上の3Dモデルを作れば設計が終わったと感じてしまい、実機に触れて五感で検証する場面がほとんどありません。
思考と責任の空洞化
意図のない流用設計が重なり、なぜその形状・肉厚・公差にしたのかを、自分の言葉で語れない若手が増えています。
現場感覚の喪失
加工性や組み立て時の作業性をイメージできないまま図面が出ていき、後工程でトラブルが多発します。
実機でしか気づけないことがある
操作構造の原理試作を手で動かして、はじめて画面では見えない摺動抵抗に気づく。強度解析の数値だけでなく、試作品を手で触って「思ったより弱い」と材料物性と形状の組み合わせを体で理解する。こうした体験は、モデル上の検証では代替できません。
図面も同じです。単なる寸法指示書と捉えていると、作る側の作業性への配慮が抜け落ちます。たとえば塗装指示なら、スプレー塗装のメカニズムを理解したうえで、確実に塗る範囲と、多少かかってもよい範囲(オーバースプレー)を描き分ける必要があります。
思考と検証のサイクルを、仕組みとして埋め込む
- 論理構築とDRでの提示 物理メカニズムに基づいて形状・寸法・決定理由を言語化し、設計審査で論理的に説明する。担当者が課題を出し、有識者が助言する場そのものを、知見の伝承の機会にします
- 設計意図と製造配慮が見える作図 決定の経緯と根拠を仕様書に残し、意図なき流用設計を防ぐ。製造工程の特徴と限界を考慮した設計と検図を行います
- 自ら組み、自ら評価する 設計仕様と現物の差異を体で理解し、不具合現象を正しく捉えて対策を打ち、再評価する
- 思考と経験と結果を資産化する 個人の経験を、組織が引き出せる形で残します
何が変わるか
- 図面の伝達力 加工性と作業者を考慮した「誤解のない図面」になり、外注トラブルと加工手戻りの工数が大きく減ります
- DR(設計審査) 「過去製品と同等」では通らなくなり、メカニズムに基づく説明ができるようになる。通過率が上がり、審査時間も短くなります
- 実機評価と品質 不具合現象を正しく理解し、根本原因を除去する対応が取れるようになります
AIやCADを否定する話ではありません。ツールで効率化した分の時間を、思考と検証に戻す。その設計が、品質の平準化と若手育成の両方に効きます。